『虐殺器官』

 夭折の小説家、伊藤計劃の処女作である、『虐殺器官』をアニメ化した作品である。舞台はアメリカ〜ヨーロッパ。アメリカの情報軍と呼ばれる特殊機関に所属するクラヴィス・シェパード大尉は、ある日ジョン・ポールという男のを無力化する任務に就くことになる。彼はサラエボで起きた核爆弾テロを発端に世界各地で多発した虐殺行為の中心にいる人物とされ、アメリカも危険視をしていた人物であった。彼に迫るために彼の愛した女性、ルツィア・シュクロウプと接触するも、クラヴィスは彼女を気にかけるようになる。ジョンとの接触にも成功するが、彼に関わるに連れて、この世界の在り方や、アメリカ政府の方針にも疑問を持つようになり、彼の雇い主であるアメリカ政府と、ジョンの語る真実との狭間でクラヴィスは揺れ動くのだった。

 この作品は、現代社会の戦争という現実との我々の向き合い方を示すような作品だなと感じた。私たち自身も遠く中東やらアフリカやらで戦争や紛争、そしてヨーロッパでのテロ活動が頻発していることはニュースで見聞きするだろう。しかし、これらの現実に当事者として向き合えているだろうかということに焦点を置いている。

 例えば、作中では生々しいほどの戦闘シーンが多数描かれているが、当の戦闘している主人公擁する特殊部隊は、戦闘行為に危機感や緊張をあまり感じていない。ジョンもこれについて物語終盤で指摘しているが、彼らは少年兵が麻薬を摂取して感情を押し込めているように、特殊な催眠療法と薬品を摂取することで感情の起伏をなくしている。作中ではゲーム感覚で戦争をしていると言及されているが、これはゲーム以上に感情がフラットな行為なのだ。いわゆる無関心の状態に近いと言えるだろう。これは私たち日本人が遠く中東での戦争、アフリカでの紛争を無意識に政府という器官を通して国単位に遂行しているという点を指摘しようとしているのではないかと感じた。伊藤の無意識な行為への忠告、真実への気付きを促すような本作は、現代社会に重大な警鐘を鳴らす作品になっているのではないだろうか。

子犬を畏れる男

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